週に1回は来院されている60代男性患者さんの話です。
身体を使う仕事をされていて、重い物などを運んだりすると腰痛が出ます。
痛みの出るところもマチマチで、手や脚などの痛みを訴えることがあります。
2019年10月、来院されて「腰が痛い」とおっしゃったので、いつもの通り施術しました。
ベッドの移動で、「腰がまだ痛い」とおっしゃいました。
いつもはだいたい良くなっているのですが、今回はいつもと違い重症なのかな?
とちょっと運動療法を増やしました。
術後「だいぶ楽になったわ」
と喜んで帰っていただいたのですが、その2日後に電話があり
「熱が出てだるくて動けない」
と言われました。施術してからすぐに熱が出て、ちょっと寝て起きたら39度の高熱になっていたそうです。
本人は揉み返しなのかな?、と当日に内科に行ったら医師から「揉み返し」みたいな事を言われたみたいでした。
解熱剤と痛み止めの処方を受けたみたいで、解熱剤を飲んだら熱は一旦は下がるのですが、またすぐに熱は上がります。
翌日も内科に行き点滴を受けてきたそうです。
そして当院に電話を頂いたのは2日後でした。
患者さん本人は熱が出てもこんなに長引くことはなかった、とおっしゃいます。
私も今までにこんな症例には出会ったことがありません。
が、すぐに感染症が頭に浮かびました。
尋ねるとインフルエンザは否定されたそうです。
血液検査をしたのか聞くと「していない」という答えが返ってきました。
血液検査をした方が良い事を伝えるとすぐに内科に行ってくれて、採血をして抗生物質の処方を受けました。
電話で「抗生物質飲んだら楽になったわ」と連絡を受けてホッとしていました。
その5日後に、共通の知人の患者さんが来院された時に「入院した」という事を聞きました。
「どうやら腰にばい菌が入ったらしい」
と言われて、髄膜炎かな?、と頭をよぎりました。
私のせいで悪くなったことでは無いみたいですが、やはり気になります。
空き時間にお見舞いに行きました。
患者さんは大変辛そうにしていて、痛さが伝わります。
患者さん自身もあまりよく病態を把握されていないみたいでしたが、私なりに解釈すると
「化膿性脊椎炎」であると思われました。
内科での血液検査の結果が悪く、病状も悪化したので大きな病院へ紹介となり、朝から晩まで検査して即日入院になったそうです。
化膿性脊椎炎とは
接骨院では絶対に確定は出来ません。
その疑いがある事は指摘出来るかもしれません。
今回私は出来ませんでした。
血行性に生じる脊椎の化膿性骨髄炎で、起炎菌はブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌などが主でしたが最近では多種多様になっているそうです。
症状
急性、亜急性に発症して高熱を伴います。
激しい腰背部痛があります。
局所の自発痛、叩打痛があり、脊柱の運動制限が見られます。
感染経路
大多数が血行感染ですが、稀に椎間板の手術や検査による感染もあります。
静脈感染
脊柱管内には豊富な静脈叢があり、ここから最終的に下大静脈へ流入しますが、静脈叢には弁構造が無いので下大静脈へ流入する血液が静脈叢に逆流し、二次的に血行性病変を形成すると考えられています。化膿性脊椎炎が頚椎に少なく胸・腰椎に多い事や、骨盤内臓器の感染が先行する例があることが根拠となっています。
患者さんは数週間前に尿路結石をしており、血尿が出ていたことからこの可能性があるのではと考えています。
動脈感染
分節した動脈の分枝はその径を細くしながら椎体終板で終わりますが、この細動脈の感染性閉塞が起こると病巣が形成されます。血管に富む前縦靭帯付近の椎体終板は病巣の好発部位となっています。
椎体終板に初発病巣→炎症の椎間板内への波及で椎間板高の狭小化(2〜3週)→椎体の破壊
治療
接骨院でできる事はありません。
保存療法では体幹ギプスをしますが、化学療法による同定された菌に対する抗生物質が投与されます。
今回の治療にあたり患者さんは前日に寒気を感じていたそうです。飲酒をして身体を温めれば良くなるだろうと、就寝して翌日の朝に来院されました。
私がバイタルチェックで体調の変化を事細かに聴取したら良かったのですが、「腰が痛い」という訴えに完全に意識が行ってしまったため知り得る事はありませんでした。
今回の症例はショックでした。
反省も込めてここに記し、今後の対応に活かしたいと思います。