往診で対応した患者さんです。
主訴
60代の男性で、主訴は右腕を上げるときに、ズキッと右肩に痛みが出る事と、右手示指が赤く腫れ上がって光沢感を持ち曲げれないというものでした。
現病歴
現病歴を聴取すると、3ヶ月前に脳梗塞になり、入院して投薬によって治療しました。梗塞は左脳にあったので若干の障害が右腕に出ましたが、リハビリで正常近くまで動くようになったそうです。まだ若干の言語障害もあります。退院して2週間でした。退院後には仕事への力はかなりセーブしていました。退院して1週間したあたりから右肩の痛みが出て来たことと、右手示指が赤く腫れて曲げられなくなりました。
治療歴
肩が痛くなったのは退院後のことで、それまで入院していた病院のリハビリ室へは行っていないとのことでした。
社会歴
電気工務店を営んでいて、仕事復帰するにあたり、示指が赤く腫れて曲げられないのでドライバーが使えないとのことでした。箸を持つのにも苦労しているとのことでした。
治療
肩周りを触ると、それほど固くはなっていませんでした。圧痛が棘上筋、棘下筋部に見られ、肩の屈曲最終可動域で棘上筋部、内旋で棘下筋部の痛みが出ることが分かりました。
肩甲骨の動きを確認すると、非常に悪いので他動的に右肩を動かすようにしてから自動で動かしてもらうと、屈曲の最終可動域での痛みは軽減しておりました。
患者さんには肩甲骨で腕を挙げるよう指導しました。
脳血管障害後の痛み
脳血管障害後の痛みとは
脳卒中後痛(post-stroke pain)は脳血管障害によって障害側の対側に出現する難治性の痛みの総称です。麻痺が生じた関節や筋肉の拘縮による侵害受容性疼痛を伴っていることもありますが、大体が中枢性の神経障害性疼痛です。
痛みの求心路が遮断されたことにより、支配領域に自発痛が発生したものです。(deafferentation pain)
脳卒中後の数日〜数ヶ月後に発生し、頻度としては8〜14%程度で見られます。
元々は視床痛(thalamic pain)と呼ばれていましたが、責任病巣が視床以外にもあることからWallenberg症候群と合わせて脳卒中後痛と呼ばれています。
痛みの特徴
感覚障害がある部位にしびれを伴って、
allodynia(非侵害刺激で痛みが誘発される)
hyperesthesia(感覚過敏)
dysesthesia(不快を伴う異常感覚)
steady burning pain(焼けるような痛み)
intermittent shooting pain(間欠的に走る痛み)
といったような痛みが出ます。
視床痛
障害側の対側の四肢に限局することが多いが、対側の顔面と体幹に広がることがあります。
Wallenberg症候群
障害側の顔面、対側の四肢、体幹に痛みを訴えます。
痛みの管理
専門医で薬物治療を受けることになります。
drug challenge testは鎮痛機序が明らかにされている薬物を点滴して、痛みの発生機序を薬理学的に判別して治療法を選択します。
最近ではオピオイド系の鎮痛薬が神経障害性疼痛に有効である事が分かってきています。
経過
1回目の治療では、身体の不調部位が施術を受けて自身で把握できたので施術を継続して受けるべきか尋ねられたので、週1回の往診を受けて下さいと伝えました。
2回目の治療で、肩の痛みがだんだん強くなって悪くなっているということで肩の他動運動と自動運動を繰り返すと、施術後には肩が動かし易くなった。
3回目の治療時に、指の光沢感が減少して腫脹も落ち着いて来たのが確認できた。
4回目の治療で、肩の痛みが継続してあるが、動かしやすさは2回目の治療以降良好になった。
5回目の治療時に、握力の回復を図るためにスナップボールを渡した。
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6回目の治療時にスナップボールをうまく使えているか確認したが、使えないので娘婿にあげてしまったとのことでした。
リハビリの重要性を感じて入院していた病院に2ヶ月間リハビリに通う事にされました。
往診は継続して受けられていて、半年を経過した頃には右手の痛みは訴えなくなり、右肩もだいぶ良くなったそうです。