整形外科に勤務していた時には、アマチュアのギタリストの右大腿部に異所性骨形成を認めた例(ギターのボディ部分のエンドピンという部位が演奏中大腿部に常に当たっていた)や、アメフト部の学生が練習中に右上腕部を強打し、骨化性筋炎を発症し、その後に橈骨神経麻痺を続発した例などを経験しました。
骨化しやすい環境と繰り返される機械的刺激により骨化が誘発されるので、打ち身が原因とはっきり分かっている患者に対し、ただの打撲症と考えて処置をせず、考えられる予後も視野に入れて治療に当たらなくてはいけません。
骨化性筋炎とは
大腿部骨化性筋炎はコンタクトスポーツ(ラグビー、サッカーなど)をする選手によく見られ、激しい打撲などの後に、二次的に筋肉内に骨性物質が形成されます。
部位としては大腿の前面(中間広筋)または側面(外側広筋)に多く見られます。
この部位の筋肉への打撲症は「チャーリーホース※」と総称されます。
※昔、アメリカの野球選手が相手との接触で太腿を打撲して足を引きずっていたのを、野球場でグラウンド整備をしていた馬が足を引きずっていた様子と似ていたことから、この馬の名前を称したとされています。
激しい接触を受け、筋線維や毛細血管が損傷すると血液が筋肉内に貯留し、血腫となり、この血腫の部分が骨性物質に変化します。
本来は骨組織が形成されない部位での異所性骨形成については、そのメカニズムは詳しく知られていませんが、サイトカインが骨誘導因子として発症に深くかかわっているとされています。
この異所性骨形成によって引き起こされる炎症が骨化性筋炎です。
症状
患部の腫脹、発赤や熱感が見られ、上下の関節の可動域制限、運動痛などが見られます。
対処・治療
まずは骨化性筋炎を発生させないために、受傷直後の出血や腫れを最小限に抑えることが重要です。
受傷直後にRICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)を行います。
方法としては内出血を軽減させるために膝関節を痛みが発生しない範囲で、できるだけ深く屈曲させ、大腿四頭筋を伸展させた状態にして弾性包帯を巻くことで同時に受傷部に圧迫を加えることができます。
既に骨化性筋炎が発生し、症状が重篤で歩容に異常が生じている場合にはギプスシャーレと松葉杖を使用することで患肢への荷重負荷を軽減させます。
受傷直後に整形外科で単純X線やエコー検査を受けても異所性骨形成は確認できないので、定期的に検査を行う必要があります。
受傷直後は安静が第一ですので無理に動かしたり、患部にマッサージなどの手技などを受けてはダメです。
歩行や荷重での痛みの軽減が見られたら愛護的に関節可動域訓練を始めます。