テニス肘の保存的治療の効果について、『American Journal of Sports Medicine』10月31日オンライン版に掲載がありました。
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)は上腕に付着する腱に過度の負荷がかかることで障害が生じます。
テニスなどのラケットを使った競技をする人だけでなく、仕事などで手や手首を日常的に使う人は誰もが発症する可能性があります。
その治療には、ステロイドの局所注射や理学療法、鍼治療、消炎鎮痛薬、ボツリヌス毒素の注射、超音波やレーザー治療など多くの保存的治療があります。
米ハーバード大学医学大学院の研究で明らかになったのが、保存的治療の効果はいずれも限定的で、プラセボの効果を大きく上回るものはない可能性があるということです。
実験と結果
そこで、プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)を対象に行い、メタ解析を実施しました。
これらのRCTでは手術を除いた11種類の治療法の有効性が検証されてます。
治療開始から①4週後、②5週後から26週後、③26週後以降における各種治療の疼痛と握力に対する有効性を検証しました。
①4週間以内の短期間では、ステロイドの局所注射だけがプラセボを上回る効果がわずかに認められましたが、その後はプラセボとの有効性の差は消失する結果になりました。
また、②5週後から26週後の期間では、レーザー治療またはボツリヌス毒素の注射を受けた患者では、他の治療と比べてわずかだが統計学的に有意な疼痛の軽減が認められました。
さらに、③26週以降では、体外衝撃波治療を受けた患者でのみが他の治療法と比べて長期的なベネフィットが得られました。
そのほか、握力の改善でプラセボよりも優れていたのはレーザー治療のみでした。
また、プラセボを使用した患者と比べて実際の治療を受けた患者では副作用の発現頻度が高いことも分かりました。
一方、③26週後以降にはプラセボを使用した患者の99%で疼痛はほとんど、あるいは完全に消失したという結果が出ました。
では、肘を故障したらどう対処すべきなのか?
米ハーバード大学医学大学院の医師は「鎮痛薬は個々の患者の状態に応じて処方してもよいが、その使用期間は4週間以内にとどめておくべきだ」と提言し、
「われわれの研究では、ほとんどの患者でテニス肘に伴う痛みの多くは自然に軽快することが示唆された。この結果に基づけば、全般的には経過観察が推奨される」とも述べています。
この結果を見ると、何もしないほうが良いの?ってなります。
ただ、理学療法は個人の技量が関係するので、一概には言えないところがあります。
難治化している人も当然いますが、治っている人もいます。
治療の頻度などの条件など、詳しく知りたいところです。
プラセボ
有効成分が含まれていない薬を、本物の薬として患者さんに使用してもらった時に、ある程度の割合で治ってしまうことがあります。
これは薬を飲んだという安心感が、体にひそむ自然治癒力を引き出しているとも言われています。
薬は多くの患者に安定して高い効果を発揮するように作られているので、治験薬の効果を確認するためにも偽薬が用いられる実験がされます。
ランダム化比較試験
体格・性別・年齢・健康度・遺伝的体質がそれぞれ違うので、薬の効き目・安全性を比べるためにグループ分けをします。
ほぼ同じ体格・体質の相手に使用してみて、その効き目や安全度を比べるために、くじ引きのような方法でグループ分けを行う(ランダム化する)と、どのグループにも異なる体格・体質の人たちがほぼ均等な割合で含まれることになります。
このようにして出来上がった各グループで、それぞれ異なる薬や機器を使用することで、その効き目・安全性を正しく推定することができます。
ランダム化する(すなわち偏りがないように振り分ける)ということは、どのグループに入るか自分で選べません。
メタ解析
複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析するための手法や統計解析のことで、メタアナリシスとも言います。