臨床でよく目にするのが外反母趾の親子での罹患です。
たまたまかもしれませんが、母親と娘でなっている人が多かったように思います。
変形性股関節症の患者も母親と娘で見られることがありました。
家族なので生活環境が似ているため遺伝ではなく環境因子かもしれませんが、
このありふれた疾患である変形性関節症(OA)が多因子遺伝病ではないかと言われるようになりました。
原因遺伝子
機械的ストレスにより軟骨は日々損傷を受けます。
この時に軟骨細胞や基質が減少する事になりますが、生体の防御反応で成長因子が働き軟骨細胞を分化させて基質の産生を上げて減少分を補填しようとします。
この時に成長因子が作用しすぎると軟骨の異常増大や腫瘍の発生を招きます。
そこでアスポリンという細胞外基質蛋白が軟骨への分化を調整、制御します。
このアスポリン遺伝子内にアスパラギン酸の多型があると、この軟骨細胞への分化や基質産生の制御が強く働いてしまい、十分な軟骨再生が得られなくなります。
調査では疾患保有者とアスポリン遺伝子内のアスパラギン酸の多型の保有者には相関関係があるそうです。
OA患者の治療には遺伝子レベルでの診断も必要となり、データの蓄積によって予後や予測がつく事になります。
サプリメント療法
OA患者が容易に取り組みやすい治療法として薬物療法があります。
その中でも、消炎鎮痛剤ではなく効果がありそうな治療法としてサプリメントや健康食品に飛びつくのは理解の範囲内です。
テレビのCMでよく目にするグルコサミンは30年以上前から使用されていて、その作用機序も継続して解明されています。
しかし、このグルコサミン自体そのものが軟骨を産生しているような表現が消費者の誤解を招いているような気もします。
先日テレビで通販番組を見ていたら
となってました。
この表現では、コラーゲンを摂取しなさいというように捉えられかねません。
グルコサミン
グルコサミンはブドウ糖にアミノ基がついたアミノ糖です。体内のプロテオグリカン※に多く含まれています。
※特殊な構造をもつ糖とタンパク質の複合体で、コラーゲンやヒアルロン酸とで身体組織や皮膚組織を生成し維持しています。
体内ではブドウ糖(グルコース)からフルクトース→グルコサミン→ガラクトサミンになり、グルクロン酸と重合する事でグルコサミノグリカンを作ります。
要は、ヒアルロン酸を構成する二糖のうちの1つがグルコサミンであるということです。
アミノ糖 | ウロン酸 | グリコサミノグリカン |
---|---|---|
グルコサミン | グルクロン酸 | ヒアルロン酸 |
ガラクトサミン | グルクロン酸 | コンドロイチン |
この話で、グルコサミンだけでは軟骨にはなんら作用しないことが分かります。
話は摂取したグルコサミンが効率よく体内で利用されて症状の改善効果、軟骨破壊の抑制効果に関わっているかが重要という事になります。
症状の改善効果に関しては、グルコサミンとコンドロイチン併用で関節痛に効果があったとされています。
軟骨細胞の炎症や鎮痛、関節破壊の面ではPGE2※やNO※、MMP※産生が抑制されています。
※PGE2:プロスタグランジンE2で起炎物質・発痛増強物質であると同時に生命維持には欠かせない物質。
※NO:一酸化窒素 (NO)のことで、生体内で過剰に滞留すると関節炎などの炎症性疾患の引き金になります。
※MMP:マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は細胞外マトリックス(ECM)を分解し、慢性関節リウマチ、変形性関節症などにおける組織破壊に関与していることが知られています。
軟骨破壊抑制に関しては、立位での膝関節X線像で関節裂隙の測定で評価していますが、評価法に議論があり臨床エビデンスが低いとされています。
まとめ
私はサプリメント療法には否定的ではありません。かといって患者さんにお勧めするほど肯定的でもありません。
前述の遺伝的要素があれば、いくらサプリメントを飲んでも無効なのではと考えるからです。
しかし効果のあった研究結果も出ているので、より効果的で高品質な製品が世に出るのが待たれます。