整形外科で働き始めた頃(2008年頃)に教わったものに
反射性交感神経性ジストロフィー
(reflex sympathetic dystrophy: RSD)というものがありました。
院内でスタッフ間では普通に使われていましたが、このRSDという言葉が院長の耳に入り、
「この言葉は古いからもう使うのは止めなさい」
という一声があり、使われないようになりました。
その頃は、就職してすぐでしたので、どういうこと?
と思いましたが、院内でRSDに代わるCRPSという言葉についての勉強会があり、理解を深めることができました。
歴史
1860年代
末梢神経損傷後の四肢の激しい焼けつくような疼痛を特徴とする
慢性疼痛性症候群に対してカウザルギー(灼熱痛:causalgia)
という言葉が初めて使われました。
1900年代
足部外傷後や手術後に過剰な炎症反応がおこり、結果として骨萎縮が遅発性に生じることをSudeck 骨萎縮としました。
1940年代
カウザルギーと呼ばれていた疼痛性症候群に対して特異的な症状は、
疼痛ではなく、
発赤・腫脹・発汗異常・骨萎縮・皮膚、筋の萎縮等の
交感神経の関与が大きいと考えたのでRSDという言葉を使いました。
1940年代
肩の有痛性運動障害を持った患者の中に、同側の手の腫脹を伴う者がいたことに注目し、肩手症候群という呼称を用いられました 。
1970年代
RSD は
・causalgia (major・minor)
・traumatic dystrophy (major・ minor)
・肩手症候群
の5つに分類されました。
(majorはminorよりも一般的に臨床症状が重篤)
いずれのタイプにも共通していることは、誘引と考えられる外傷や疾病と直接関連づけられないほどの激しい疼痛や重篤な障害を呈することでした。
1980年代
混合神経の不全損傷に起因した疼痛疾患を causalgia とし、
それ以外の交感神経が関与する疼痛疾患を RSD と一括されました。
1980年代
RSDの中に交感神経のブロックによって必ずしも改善されない
SIP(交感神経非依存性痛)が存在することが報告されました。
この為、RSDは交感神経系の異常のみで説明がつかなくなり、
交感神経系の関与は疑問視されるようになり、
RSDという疾患名自体が意義を失うことになりました。
1990年代
RSD と呼ばれる疾患の中に
交感神経非依存性痛 (SIP) が存在することから、
RSD を
複合性局所疼痛症候群タイプ1
(Complex Regional Pain Syndrome typeI:CRPS type I)
としました 。
type I は神経損傷がないもので、
type II は神経損傷と関連する causalgia としました。
私が就職するかなり前からRSDという言葉は使われず、CRPSが一般的だったようです。
新しい情報というのは本当に重要です。